宙(そら)にとけて、しまう
開け放した天窓の網戸越しに風が入ってくる。
柑橘の葉のような濃い香り。
昼間の暑さからは信じられないほど涼しい風。

「いい風」
「そうだねいい風」
「この言い方、おばさんだよね」
「でもいい風」

そんなことを言い合ううちに二人とも言葉少なになる。
マナミと話しているのはとても楽だ。
可愛い妹だと思うときもある。
けれど、とても遠くにいるような気がする。
マナミ、愛に美しいと書いてマナミ。
あの子が生きていたら生まれなかった子。

「お姉ちゃん」
「まだ起きてた」
「おやすみ。はっぴーばーすでー」

静かな息を吐き出しながらそう言った後、
もう寝息が聞こえてくる。
その時だけ、マナミがまるで、
生まれたての仔猫のように思えた。

おやすみ、マナミ。
マナミ、自分がこの世にいなかったかもしれないって考えたことある?
そう想像すると、わたしは妹がかわいそうなような、変な気分になる。
かわいそうなのはマナミじゃない。
じゃあ誰だろう?
わたし?
それともあの子?
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