宙(そら)にとけて、しまう
「不幸な話するやつ、何か苦手で」
急にヒデミがそう言った。

わたしたちは海にきていた。

ヒデミは隣のクラスの男の子なんだけれど、実はわたしとは遠い親戚らしく、でも親たちもよく調べないとどこで繋がっているのかわからないくらい、ほんとに「遠い」血縁関係なのだった。

ひょんなことからそれがわかったのは去年くらい。
親戚に、すごく珍しい名字の人がいるって話してる男子がいるなーと思ってそれとなく聞いていると、うちの親戚と同じ名字だった、
そんなこと。

その時しゃべって何となく仲良くなったんだけれど、別につきあってるわけじゃないし、お互い好きってわけでもないし、一緒にいて話がはずむわけでもない。
だけど、なぜかちょっと楽しい。
すごく楽しくはないのに、ぼんやり楽しい。
生ぬるく、楽しい。
親戚だからってわけじゃないけど、従弟と遊んでるような感じだなあと思う。
ヒデミは体も小さいし、運動もできないし、勉強はまあ、中ぐらいで、
いわゆる目立たない子っていうやつ。
わたしも自分のこと、目立たない子って感じてたけど、多分ヒデミの方がもっと目立たないんじゃないかと思う。

そんなヒデミと今日海にいるのは、
やっぱりロマンチックな理由とかではなくて、
成り行き上という感じ。
うちのすぐ近くの海岸で、
散歩に来るような場所だけれど、
その日は波が少し高くて他に人がいなかった。

「ふーん、何で?」
とわたしが聞くと、思ったより長く考え込んでからヒデミが答えた。
「慣れてる感じが、やなんだ」
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