紅に染められて
俺は携帯電話をポケットに入れ犯人の襟を掴み引きずり歩きだした。


やばい、眠い、眠たすぎる。
深夜の仕事は俺の体力を予想以上に消耗させた。
ましてや今回は仕事の内容の殆どが、走る、という行動で埋め尽くされていたからだ。


こんな遅くまで時間がかかってしまったのには理由がある。
まあ理由なんてちっぽけなもので、このひったくり犯を捕まえるために、わざわざあまり親しくもないご近所の方々に聞き込みをしたりとか、俺の上司さんから資料を貰ったりなどと、捜索で走り回ったせいかこんなに時間がかかってしまったのだ。


ずるずると、男を引き摺る音がやけに耳障りで、さらにそれが睡魔を襲わせた。今では銃の重ささえ億劫だ。


夏の夜風は結構涼しく、電灯もないこの道では、ロマンチックな感じで月が灯りを灯してくれる。


深呼吸をするかのようにゆっくりと溜め息をつく。
ふと忘れもしない、あの日の出来事を思い出す。


それは八ヶ月前の、外がまだ寒空の中に身を置いている季節。
それは俺がこんな事をするハメになった原因の、一生付き合わなければいけないと思われる上司さんとの出会いの話だ。
< 8 / 10 >

この作品をシェア

pagetop