ロザリオとアイアンメイデン
母はそう言って笑いながら皿を勧める。けれど私は嬉しい反面戸惑いを隠せない。
ぎこちない動きで手を伸ばし勧められた皿を受け取った。
この国は弱りきっている――
隣国との領土を巡る争いが続き、土地は荒れ、国は疲弊し、民間人はその日の糧にも不自由する有様だ。
健康な男たちは戦場に駆り出され、私の父も例外ではなく、兵士として徴収されてもう五年帰ってこない。
連絡はとれず、生死は不明。否、もう生きてはいないのだろう。
しばらく前に、夜、手紙を握り締め、祈りを捧げながら泣いている母を私は見た。
私やレンには告げないが、多分、あれは戦死の知らせだったに違いない。
部屋のドアの隙間から母の姿を見ながら、声をかけることもできず、私は確信した。
母が何も言わないのは、レンのためだろう。まだ五つになったばかりのレンに父の死を告げるなんてできやしない。
「パパも一緒に食べれたらよかったのにね」
シチューを貪るように口に入れながらレンが、無邪気に母に言う。