エージェント・レイ‐狂人の島‐
男性の指摘は的確だった。

事実、船の乗務員達も、港に作業員が誰もいない事を不審がっていた。

無線で連絡を入れたり、船から大声で呼びかけたりしているが、何の反応もない。

「……」

胸に手を当て、私は一抹の不安を感じていた。

霧は更に濃く、濃密さを増していく。

その霧の中から、ざわざわと声が聞こえたような気がした。

何か言い知れない、『境界線』の向こうから威嚇するような声。

こっちに来るな。

来るなら容赦なく洗礼を浴びせる。

そんな身の毛のよだつような声が、日の光すら遮る霧の中から、聞こえたような気がしたのだ…。

< 10 / 130 >

この作品をシェア

pagetop