エージェント・レイ‐狂人の島‐
一緒に船を下りた革ジャンの若い男性と、スーツ姿の男性の姿は見えない。

霧で見えなくなってしまった。

それぞれ目的の場所へ向かったのだろう。

白い闇の中、私とおば様は二人きり。

「こう霧が深いと、何も見えませんね…」

つい心細くなり、そんな事を呟いてみる。

「大丈夫よ」

おば様はにこやかに笑った。

「私は生まれた時からずっとこの島に暮らしているもの。庭みたいなものよ。見えなくたって…ほら、こっちに向かえば街の方だわ」

視界が悪いにもかかわらず、彼女はしっかりとした足取りで歩を進めた。

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