エージェント・レイ‐狂人の島‐
その姿に、声を詰まらせる。

男性の腹部には、深々と包丁が突き刺さったままになっていた。

根元まで達している包丁。

素人目に見ても、致命傷とわかるほどの刺し傷だった。

「…突然暴徒に刺されてな…何とかここまで逃げたんだ…」

苦しげに呼吸しながら、男性は言う。

傷口からは大量の血が流れ出し、アスファルトに血溜まりを作っていた。

この傷では…長くはないだろう…。

「死ぬ前に…まともな人間に会えてよかった…ごふっ…」

言葉の途中で喀血する男性。

私は思わず彼の体を支えるものの、何もしてあげる事は出来ない。

応急処置も、痛みを和らげてあげる事も…。

< 35 / 130 >

この作品をシェア

pagetop