エージェント・レイ‐狂人の島‐
「いいか…お嬢さん…」

血まみれの手で、男性は私の手をしっかりと掴む。

「地下水だけは絶対に飲むな…あれを飲んだら終わりだ…あっという間に、そこら徘徊している暴徒と同じになってしまう…どんなに喉が渇いても…地下水だけは飲むな!」

目をひん剥いて、強く私に言い聞かせる男性。

私は彼を見つめながら、静かに頷く。

…それを確認すると、安心したように。

「…そろそろ…死んだお袋が迎えに来たらしい…」

男性はゆっくりと目を閉じ始める。

「……っ!」

何も出来ない。

ただただ、手を握り締めてあげるしか出来ない。

「生きて島から…出られるといいな…」

そう言って。

男性の手は、私の手の中から、くたりと落ちた。


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