そのコップは空(ソラ)だった。
「ねみー…マジねみー…
もぅ一回寝よーとっ。」
バサッと音を立て
女は数分もすればまたいびきをかき始めた。
こんな奴のことは知らねっ。
俺はやすぴーの鼻につまった声に集中しようと体を前に寄せた。
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『あのね!あのね!
今日、学食でたぬきうどん食べたんだ!!
バイト代が入ったからリッチな食事しちゃった♪』
たった70円奮発しただけで"リッチ"と喜ぶ彼女は
いつもの子供っぽい無邪気な笑顔で笑った。
「はいはい。よかったね。」
俺は呆れながらもそのクセっ毛の頭を撫でた。
『えへへ♪』
彼女は頭を撫でられるのが好きだった。
なんともまぁ子供みたい。
これでも俺の3個上なのに。
彼女の名前は小林空美(コバヤシクミ)。
俺は人に空美の存在をバレるのが嫌だったから
ソラと呼んでいた。
いや、嫌じゃない。
嫌というか人にバレて冷やかされるのが嫌だっただけ。
だから、姉貴以外に誰も言わなかった。
そう、内緒の関係。
会うのも人目につかない薄暗い神社で会っていた。
だから、俺の本能も抑えられないままであった。
今じゃ恥ずかしい至りだ。