時 空 堂

 目を細めて笑う。もう何も思わない。逃げたくても、こいつの手に持っている包丁と、こいつの狂気によって俺は動く気力を失くしていた。逃げ場はない。

「さよなら恭ちゃん、またすぐ会いましょうね」

 そう言って手に持っていた物を振り上げた。こいつの動きがスローモーションのように、ゆっくりとゆっくりと動いた気がした。

 電気に反射する包丁が光って目に入ったあと、激しい痛みと共に目の前が真っ暗になった。

「ふふふふふっ」

 変な笑い方をするあいつの声が聞こえた。

「愛してる、愛してる」


 遠くで悲鳴にも似た声が聞こえた。


「・・・さよなら、母さん」
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