時 空 堂

┣もう一つの過去


 そういうと、クロはまた長い長いため息をついた。

「一つ、話をしてやろう」

 クロは少し上を見上げる。黙ってクロの方を見た。

「いつのことだったろうな」

 目を細め何かを思い出すように考えているようだった。

「もう思い出せないほど昔の話しだ。あるところに小さな子供が居た。世間の汚さも、裏の世界も何も知らない純真無垢な男の子だ。・・・男の子は親に連れられて山に行った。食べ物を探しに行くものだと思い、いつものようについていった。でもそこで親とはぐれ、迷子になり、離れ離れになった。何度も親を呼び、叫び、泣いて泣いて、泣き疲れては木の陰で寝た。いつまでも返答もない問いかけをした。どれくらいの日が過ぎたかわからないまま、なんとか命からがら山を降り、やっとの思いで家に帰ると家はもぬけの殻だった。何もなく暗い空間だけが残っていた。あとで分かったのは、男の子は口減らしのために捨てられたのだ」

「えっ」
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