時 空 堂

「ずっと白髪の隙間から見えて、綺麗だなってくらいにしか思ってなかったんだけど、見てこれ」

 自分の左耳のピアスを刹那に見せると、少し驚き、刹那は自分の右耳を触っていた。

「その赤いピアスは俺とあいつがお揃いで付けていたものなんだ。気になっていたんだけど、お揃いだったのはすっかり忘れてた」

 自分の耳を触りながら、話を続けた。

「漢詩の長恨歌ってのに、天に在りては願わくは比翼の鳥と作らん、地に在りては連理の枝と為らん、ってあるんだ」

「長恨歌?」

「比翼連理。深くむつまじいことの例えなんだけどさ、雌雄が一体になっているって言われる想像上の鳥のことらしいんだけど。・・・そう、あいつがよく言ってた。一体になることなんか出来ないから、これでってことで二つで一つのセットだったピアスをお互いに分けて付けたんだ」

「それがこれ?」

 刹那は自身のピアスを触ったまま、こちらを見た。

「でも、私は潤のこと何も知らないし、思い出せない。私は私のことすらも分からない」
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