時 空 堂

 救急車に乗せられる時、こっちをじっと見る黒猫が見えた。

「あっ」

 思わず声を出した。

「どうかしたの?」

 俺の傍らで心配そうに恭華が覗き込んでいた。

 じっと黒猫を見ていると、黒猫は口を開いたあと、少しして体の向きを変え、どこかに歩いて行った。

「いいですか?乗せますよ」

 救急隊員の人が俺を救急車に乗せた。

「何かあったの?」

「いや」

「すみません、事故の話を聞かせてください」

 救急隊員の人が恭華と何か話し始めた。

 俺は左腕を上げ、顔を隠すように当てた。

「良かったな、潤」

 あの黒猫がそう言ったように聞こえた。クロの声だった。

「早く、気持ちが晴れるといいな、クロ」

 小さな声で、クロに届いて欲しい気持ちで言った。
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