時 空 堂

「なんだよ。俺覚えてねーよ」

 笑い始めた母親に、少しムッとすると、それに気付いたのか笑うのをやめた。

「あれはね、野球の試合に負けて泣いて帰ってきたのよ」

「負けて?いや、それ悔しくて泣いてたんでしょ?何か変なことあったの?」

 自分のことのはずなのに、あんまり覚えていない。大体負けても泣いた記憶なんてほとんどない。

「あぁ、そうだそうだ。思い出した。負けた相手チームに女の子がいて、悔しくて泣いて帰ったんだよな?」

「そうそう」

 よく覚えているなと感心する。
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