Bitter&Sweet
玄関で靴を履く美紅さんの背中を見つめると
「翠さん」
「はい」
「私は構いませんから」
こちらを 振り返らず
美紅さんは少し低い声で呟いた
「翠さんに 大切な人がいても
私は邪魔しません
翠さんの妻と言う揺るぎない場所が欲しいだけですから―――――――」
わからないのだろうか?
その感情が
どれだけ ねじれているのか
そんなに妻の座が欲しいなら
うちの病院の独身ドクターなら誰でもいいだろう?
なんでオレなんだか
「オレは愛のない付き合いも結婚も出来ませんよ」
美紅さんの背中にそう言うと
「今日は本当に失礼しました」
美紅さんは静かに家を出て行った