Bitter&Sweet



外来診察が終わり


美紅さんが待つ屋上へ向かう


ありがたいことに
屋上には人気もなく


吹き抜ける風が


美紅さんの
長い巻き髪を揺らしてた



フェンスに手をかけ

遠くの景色をながめる
美紅さんの背中に


「お待たせして
申し訳ございません」と謝りながら近寄ると



揺れる髪を片手で押さえながら振り返り


「いえ……」と
眩しそうに目を細めた



時間もないから
単刀直入に切り出す


「私の義母に
会って来たんですよね?」


彼女は少し困ったように
うつむいて


「……ええ。あなたがどこでどんな人に育てられたのか知りたかった」


「ひ…、いや、南のこと
何かいらない詮索を……」

「『姫』でよろしいですよ?
もう知ってます。
あなたは南さんを『姫』と呼んでらっしゃる」


クスクス
笑いながら言われたから


頬が少し熱くなる


姫を『南』と呼ぶのは 何故かくすぐったいし


姫を『姫』って呼んでることを知られるのも照れる……


って照れてる場合かっ、オレ



目の前にいる この女は
オレと姫の過去を知ってる



弱味を握られてるのはオレだ


………負けるわけにはいかない


まだ


まだ姫のそばにいたい



姫を捕まえていたい―――――――――――――



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