Bitter&Sweet
遠くの山を見つめるように
目をギュッと細めて吉田は
「鈴木先輩は親切だった
大学に入ってすぐ、知り合いもあまりいなかった頃
学食で私、コーヒーこぼして
服をひどく汚して……
恥ずかしさと服の汚れで困ってたら先輩が
『これ、あげる』って
自分が着てたチェックのシャツを私の肩にかけたの
まだ春の寒い時期、先輩は半袖のTシャツで去って行って」
まさか、それで憧れるって
………中学生でも
あり得ないんじゃ
「噂が信じられなくて
だけど先輩は軽く
私と寝て」
あ~、耳が痛い………
オレが屋上でこんな想いしてるの知らずに
姫は中庭で相変わらず
楽しそうに笑ってる
「その軽さや、終わったあと
私を見向きもせず、シャワーを浴びて
さっさと帰り支度する背中に
何だか私が大切にしてた
小さな物が
例えば先輩がくれたシャツや
初恋の男の子に渡せなかった手紙や
そう言った引き出しに大切にしまってた物が壊れていくみたいな」
吉田の気持ちは
痛いくらいわかる
勝手だけど
オレも同じ気持ちだった
女の子と寝る度
自分を汚して
姫を忘れたいのに
どんどん姫に相応しくない自分になるのが哀しくて
姫がくれた無償のモノが
オレも
壊れていくみたいに感じてた