Bitter&Sweet
「……好きな人なんていません」
うつむいて答えると
本郷先生はクスクス笑い出す
「…………?
何がおかしいんですか?」
そう訊くと
「いやいや。………ははは」
額に手をあて、少し顔を隠すように本郷先生は笑い続けた。
もう、なんなのよ
憮然とカクテルグラスに
口を付けると
は~あって やっと笑いを収めた本郷先生が
「じゃあ、
質問を少し変えてみようか?」
目を細め、微笑み
私の顔をのぞいて
「南は今まで恋をしたことが
ありますか?」
「………………え?」
恋
恋をしたこと…………
私が好きなのはお兄ちゃん
記憶を失くして頼りになるのは
頼りたいと思ったのは
お兄ちゃんだけ
…………じゃあ、
記憶を失くす前は?
――――――――――ない
何も思い浮かばない
待って……ちょっと待って
記憶を失くしたのは22歳
それまで、
一度も恋をしていない?
まさか。まさか そんな………