Bitter&Sweet



「……好きな人なんていません」



うつむいて答えると
本郷先生はクスクス笑い出す



「…………?
何がおかしいんですか?」


そう訊くと


「いやいや。………ははは」


額に手をあて、少し顔を隠すように本郷先生は笑い続けた。


もう、なんなのよ


憮然とカクテルグラスに
口を付けると


は~あって やっと笑いを収めた本郷先生が



「じゃあ、
質問を少し変えてみようか?」


目を細め、微笑み
私の顔をのぞいて



「南は今まで恋をしたことが
ありますか?」


「………………え?」



  恋


恋をしたこと…………



私が好きなのはお兄ちゃん


記憶を失くして頼りになるのは
頼りたいと思ったのは
お兄ちゃんだけ



…………じゃあ、
記憶を失くす前は?



――――――――――ない




何も思い浮かばない



待って……ちょっと待って



記憶を失くしたのは22歳



それまで、
一度も恋をしていない?



まさか。まさか そんな………






< 186 / 261 >

この作品をシェア

pagetop