Bitter&Sweet
通用口を一歩出ると
ムワッと蒸し暑い
オレを見つけると
美紅さんは頭を下げ
「先ほどは嫌な思いをさせて
申し訳ございませんでした」
オレは思いあたる節が多すぎて
さっぱりわからなくて
「何が?」と訊いた
美紅さんは顔を上げ
「内科部長が
私にお気遣い下さって
翠さん
嫌な思いされたでしょう?」
「ああ」
2、3度うなずいてから
「わかってるなら
二度と来ないでくださいよ」
冷たく言うと
「ええ。わかりました
だけど今日は
特別な日ですから」
怯むことなく
美紅さんはオレの目を
真っ直ぐ見た
「特別な日って?」
美紅さんは驚いたように
目を丸くして
「7月30日
翠さんの誕生日ですよ」
………誕生日?
全然 気がつかなかった
姫がいないと
そういう記念日とか
わからなくなる
まぁ、誕生日がめでたいって
年でもない
「オレの誕生日
美紅さんに何の関係も
ありませんから
それじゃ、さよなら」
素っ気なく言って
駐車場に向かって歩き出した
オレの誕生日って言ったら
何とも思い出深い
8年前
姫と初めて結ばれた夜だ
……ダメだな
何もかも、オレの全てが
姫にたどり着く
姫に結びつけてしまう