Bitter&Sweet
「待ってください、翠さん」
美紅さんは早足で
オレを追いかけて来て
「ケーキ作ったんです
これだけ一緒に食べてください」
チラッと彼女の手元を見ると
全然気がつかなかった
ケーキの箱がある
「だから!迷惑ですって」
姫が部屋から出て行った事
自分から離れるって決めたのに
いつまでも苦しくて
苛立ちはピークに達してた
こんな時に女なんかと
一緒にいたくない
「……南さん、
出て行ったんでしょう?」
美紅さんは初めて
目を伏せ
苦々しい表情を浮かべた
彼女の口からでた
姫の名前に
オレもつい反応する
「だから何?」
暗い夜の道に立ち止まり
美紅さんをにらむ
湿気を含んだ風が通り抜けると
気持ちに余裕がなくなっていく
「あなたは南さんを
諦めたのでしょう?
なのに、そうやって
いつまでも南さんに
想いを向けて」
「あんたに関係ないよ」
「いつまで 持ちますかしら?
そのやせ我慢」
………やせ我慢?
「私の目には今夜にでも
あなたが南さんの元へ
走り出しそうに見える」
ドキッとした
美紅さんは痛いところを
確実に突いてくる
言葉を返せないオレに
美紅さんはまた
いつもの作り笑いで
「こんな言い合いをしないで
サクッと一緒にケーキを
食べてください
それが叶えば
私は素直に帰りますから」