Bitter&Sweet
私が少し不機嫌になると
「お兄ちゃんの事、知りたくない?」
私側の背もたれに長い腕を伸ばして本郷先生は微笑んだ
「お兄ちゃんね、辛いみたいだよ?
可愛い妹に忘れられた事」
ズキン ズキン
鼓動をうつ度に胸が痛い
私には『思い出さなくても大丈夫』みたいな態度だけど
やっぱり嫌なんだ
そうだよね
失礼な話だもん
大切な家族の記憶だけ無くすなんて
「ボク
キミの役に立てないかなぁ?」
「…………え?」
「ボクが知ってる翠の話をキミにしてあげる
そうしたら、少しでも思い出すきっかけにならないかなぁ?って………」
「本郷先生………」
「翠もあまり過去の話はしないでしょう?
そういう性格だもんね?」
「………はい」
「ボクで良かったらだけど
どう?ボクと仲良くしてみない?
姫子ちゃん―――――――」
それは甘い悪魔の囁き
でも私がそれを知る術はない