Bitter&Sweet



姫の退院の日



病院の玄関で



「南……お母さんと帰ろ」



姫は日常的な物の記憶は戻って来たけど


両親やオレに関する記憶は全く戻らなかった



姫は退院後
実家に戻る事になってた



「あ、の……」



タクシーのトランクに荷物を詰んでると



姫がオレの腕を掴んだ



「あ、の…お兄ちゃん?」



「なぁに?姫」



「あ、…………あの」



まだ言いたい事がスムーズに出て来ない姫



「焦らないで大丈夫だよ
ゆっくり言ってごらん?」



姫の顔をのぞき込むと



「あ、私ね…あの……私は」



「南!新幹線の時間来るから早く」



松雪の母が間に入って
姫の腕を掴み



「じゃ、翠。元気でね
南の事は私に任せて
新しく頑張るのよ」



母の言葉は


オレに もう姫を会わせないと


暗に言っていた



胸が ズンッと押し潰されそうなほど痛み


何か言いたげにタクシーへ押し込まれる姫を



無理やりにでも
奪いたくなったけど



「お母さん
姫をよろしくお願いします」



唇を噛みしめ
母に深く頭を下げた


姫の幸せのために



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