吸血鬼と紅き石
…たった、それだけ。

一瞬後には、己以外の人間が床へと倒れていた。

同時に沸き上がる、噎せ返るような血の臭い。

何が起こったのか分からない。

だが、この男がした事だと分かる。

…村人を、殺したのだ。

指先が、身体が震えているのは恐怖なのか、怒りなのか分からない。

「――っ、ターニャ!」

ハッ、と脳裏に閃いた。

村人と一緒に、この小屋の中に彼女もいたのだ。

無事なのか、と血相変えて少女を捜そうとしたリイエンの腕を、男が掴んだ。

「ターニャ…あのガキか?心配ない、アイツは元から死んでいる」

リイエンをその場に縫い止めた男に、口許歪めて告げられるその、言葉の意味が良く分からない。

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