吸血鬼と紅き石
「――――っ、リイエン!」

レンバルトが息を飲んで咄嗟に床を蹴り、リイエンへと手を差し伸べた。

周りの景色がさらさらと、砂のように崩れていく。

「レン、バルト…!」

訳が分らぬまま、リイエンも青年へと手を伸ばした。

二人の距離は近く。

指先が触れ合う――――その瞬間。

パシリ。

薄氷が割れたような音が響いたのは、レンバルトの足元から。

彼を別の空間へと誘う、新たな化生の手。

その腕が引き込む先は、人が住めぬ暗黒の現夜。

「―――っチ、クソ、リイエン…!」

このままその手を掴めばこちらに巻き込んでしまう、とレンバルトは歯噛みした。

一瞬の迷いが分かれ目となり、重なり合う寸前だったたおやかな指先は、少女と共に青年の前から消え失せた。

一人残された青年の足に、幾多、数多と化生の手が巻きついていく。

「クソ…望み通り、こっちからぶちのめしてやる」

言葉と共に剣呑な光を瞳に、レンバルトは絡み付く手に誘われるまま、空間の割れ目へと飛び込んだ。

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