吸血鬼と紅き石
パリ、パリリと空間の薄膜の壊れる、不可視の悲鳴が聞こえる気がする。

静かな沈黙が、僅かばかり二人を包んだ。

ピン、と張り詰めた糸のように、獲物を捕えるには完璧だった筈の術が、まるでさあここからお逃げなさいと言わんばかりに緩み、獲物の前に傷口を広げてみせている。

術が綻びかけているのは明らかだった。

「邪魔、さえ入らなければ…この空間、で…あなたと二人、同じ…時を過ごせ、たのに…」

身体を貫く剣の影響か、それともその身そのものが滅びようとしているためか、息も絶え絶えに美しい女が呟く。

「残念だったな。俺は、誰のものにもならない」

傲慢に、いっそ不遜に、灰霧の王はきっぱりと言い切る。





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