吸血鬼と紅き石
離れた場所でさえも、恐るべき高熱でたちどころに溶かしてしまうその力が、今度は至近距離から自分に襲いかかろうとしているのだ。

―――避けきれない。

まず間違いなく、この身は滅びてしまうだろう。

リイエンは息を呑んで牙を握る手に力を籠めた。

そんなリイエンを心底愉しそうにザーディアスが見下ろしている。

男を見上げたリイエンの瞳に映るのは、懐かしい二粒の黄金の―――。

(父さん)

ぎゅ、と牙を握ったまま、リイエンは瞳を閉じる。

すぐに圧倒的な力が自分目掛けてやって来るだろう。

だが不思議と恐怖は感じなかった。





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