吸血鬼と紅き石
彼女の父の名を紡いだ唇は今は言葉をなくし、僅かにわななくのみ。

(何、なの…?)

事態の把握が出来ぬまま、リイエンは目の前の男を見つめた。

気のせいだろうか、何だか男の纏っていた雰囲気が変わったように思える。

優しく穏やかなそれは、自分がよく見知っている雰囲気に酷似しているようだ。

更にその瞳に宿る光すらも変わったように思える。

「な、……」

何が起こっているのかと口にしようとした少女の言葉は、新たに紡がれた声に行き場を失くした。

「―――相変わらず跳ねっ返りな所は変わっていないようだね」

聞き覚えのある―――…いや、何度も何度も…何時も何時も聞いて来た、声。

彼女を見つめるその瞳に宿るのは、穏やかで、慈しみを感じさせる光。

そう、目に映る姿はザーディアス…憎き男のままだというのに、その身に宿る雰囲気はまるで―――

「父、さん…?」

信じられない、と瞳を揺らしながら発した言葉に、目の前の男は応えるようにゆるやかに笑みを浮かべてみせた。








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