吸血鬼と紅き石
先程喜んだように、父が生きていた訳ではない。

ここにいるのは、自分のために一時的に姿を現しただけの姿なのだ。

そう思うと胸の奥、一番深い部分が突き刺されるように痛む。

そんな娘の心境を察したかのようにオルフェルトは優しく娘の頬を撫でた。

「よくお聞き、リイエン。私がこの男を抑えていられるのも、あと僅かばかりの時間しかない」

リイエンの頬に掌を当てたまま、はっきりと言い聞かせるようにオルフェルトは続ける。

「お逃げ、愛しい子よ。私がこの男を抑えていられる間に。…大丈夫、すぐに私の友が来る。だからお逃げ、私の娘」

優しい声音ながらも逆らうことは許さぬと、きっぱりとした決意の口調だった。

リイエンの見つめる父の瞳には、穏やかだが、言葉と同じく決意の色が宿っている。


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