吸血鬼と紅き石
こんな時の父は、いくら自分が反抗した所で結局言う事を聞かされるのは分かっている。

それに―――こうして父と逢っていられるのも、きっとこれが最後だ。

認めたくはないが、自分の直感はそう告げている。

だからこそリイエンは熱いものが込上げて来るのを必死で抑えながら、唇を上げて父に笑みを浮かべてみせる。

彼の記憶に残る自分が、彼を安堵させるものであるように。

「父さん、父さん…ありがとう。大好きよ、愛してる」

そう告げて、最後にしっかりと父を抱き締める。

強く抱きしめ返してくれる腕に安堵して―――覚えた切なさは内に秘め、少女は父に背を向け駆け出した。

この真っ白な空間の中、どこをどう逃げれば良いのかはまるで分からなかったけど。

それでも父と交わした最後の約束を守るため、もたつく足を叱咤して進める。

少しでも男から遠ざかるように――――彼、レンバルトが辿り着くまで。



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