吸血鬼と紅き石
男の瞳―――彼女の父親の瞳を奪い、黄金だったはずのその両眼。

黒。

まるで眼球すべてを墨で塗り潰しでもしたかのようだ。

限りなく、邪悪なまでの暗闇の色。

気味の悪い恐ろしさに声が出ない。

吸い込んだ息が、喉の奥でヒュ、と小さく音を鳴らした。

危険だと分かるのに、恐ろしくて動けない。

先程まで対峙していた傲慢な吸血鬼の、ぽっかりと口を開いた二つの闇に、全身を縛られでもしているかのようだ。


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