吸血鬼と紅き石

「触らっ、ないで！」

青年には悪気も害意もない。

父を悼む気持ちも一緒だ。

だが、『吸血鬼』だ。

それに今は誰にも触れられたくはなかった。

一人に、なりたかった。

「…お前がいた部屋。あそこを好きに使っていい。だが、お前は紅き石を持ってる。暫くこの城から出るんじゃねェぞ。俺の城なら同族の奴等もそう簡単に手を出しては来んだろうからな」

シャラ、と音を立ててリイエンに鍵が差し出される。

恐らく、リイエンが最初に居た部屋の鍵だろう。

口を開く気力もなく、リイエンは無言でそれを受け取り、バタバタと足音を立てて部屋を出て行った。

そのまま元居た部屋に入ると勢いのまま豪奢なベッドへと飛び込んだ。

柔らかなベッドは音もなくリイエンの身体を受け入れ、包み込む。

部屋の静かな空気を何時までもリイエンの嗚咽が震わせていた──。