吸血鬼と紅き石
「―――馬鹿」

ぐ、と胸の奥から溢れるものを堪え、少女は目の前の不器用な吸血鬼の胸に抱き付いた。

「…おい、何でいきなり馬鹿呼ばわりしてんだよ?」

失礼な奴だな、とぼやきながらも、抱き返す腕が優しい。

相手は自分の父を殺し、自分を狙っていた吸血鬼なのだ。

友の仇を討つ、という名目はあっても、自分を護る必要なんてない筈なのだ。

城へと自分を匿い、連れ去られた時には助けに来てくれた。

ターニャのことだって、きっと罠だと分かっていたのに、彼女を案じる己の願いを聞いてくれた。

自分にこれだけの事をしてやったのだ、と恩を売り、礼を強要することだって出来るのに。

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