吸血鬼と紅き石
「強く思うだけで構わんが…俺の名前を呼ぶのが一番確実、だな。名は一番の言霊になる」

そう言った青年はリイエンを見下ろし。

「一応、保険を掛けておくか」

呟きと共にその指がリイエンの唇をそっと撫でる。

「…何、保険って?」

良く分からず聞き返すリイエンに青年はそのまま唇から手を引いた。

「もう済んだ。…あァ、隣の部屋に飯を用意させておいた。昨日から何も食っちゃいねェだろう」

心情は察するが、少しでも食えと促される。

それに不承不承頷けば。

くしゃり。

今一度リイエンの髪を撫でて青年が背を向ける。

「…行ってらっしゃい」

マントを翻し、部屋を出て行く青年にリイエンは小さく呟く。

「…子供扱い、しないで欲しいわ」

乱された髪を手櫛で整えつつ、ついでのように少女はポツリと呟いた。

永く生きている青年にとってはまだ人として十数年しか生きていない自分など、子供どころか赤子かもしれないのだが。

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