吸血鬼と紅き石
目の前のレンバルトの瞳は、リイエンの知るそれではない。

初めて見る絶対的な、捕食者の王としてのそれだった。

彼の指が掛かった首に喉の奥がヒュッ、と断末魔のように音を立てた。

そうだ、彼は“吸血鬼”なのだ。

分かっていたつもりでも、本当はその恐ろしさを分かっていなかった。

リイエンが恐怖を覚えたその瞬間、フ、と切り替わるように雰囲気ごと瞳が変わる。

見知らぬ彼の“それ”から、見知った彼の“それ”へと。

「悪ィ、大丈夫か?」

喉元から指が離され、変わりにゆっくりと身体を起こされる。

だが、力の籠もらない足は立つという役目を果たさず、身体は床にヘタリと落ちる。

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