吸血鬼と紅き石
知っていたのに、怖く感じなかったのは、彼が気を遣っていてくれたお陰なのだ。
自分を怖がらせないようにと配慮された、彼の優しさだ。
最後に一瞬だけ見た、あの、寂しげな表情。
胸が締め付けられるような感覚覚えてリイエンは唇を噛む。
「自分が…情けない、ったら…!」
己の両手で強めに頬を叩き、自分の中から恐怖心を追い出す。
床から足を剥がして立ち上がる。
(気を遣わせるだけじゃ、いてやらないんだから…!)
リイエンは眼差し改め、この広い城の中、彼を捜す為に自分も部屋を後にした。