吸血鬼と紅き石
「おい」

混乱するリイエンに、不躾な声が掛けられた。

顔を上げれば絶世の、という言葉がまさしく似合うような青年が立っていた。

すらりとした立ち姿はまるで絵から抜け出て来たかのようだ。

銀にも見紛う灰色の髪。

長身に纏う、その黒いマントでさえも彼の為に特別にあしらわれた物のように思える。

それに何より、その自分に向けられる見事な灰色の意志の強い眼差しといったらまるで輝いているようなのだ。

それは精巧に精巧に、神が吐息すら掛けぬ程気を付けてまで精巧に創られた、見事な人形のような。

「聞いてんのか、てめェは」

その口から柄の悪い言葉が出て、リイエンは正直ガッカリとする。

父の造る見事な作品を見て来ただけあって、リイエンの目は美しい物を見ることに肥えていた。

おまけに仕事で忙しい父に構って貰えない間、繰り返された一人遊びによって秀でた想像力も加わり、目の前の青年を神が作った至高の人形だと想像膨らませていたリイエンの胸は萎む。

(魅力が、半減だわ)

外見に合った言葉遣いをして欲しいものだとリイエンは思う。

「起きたのなら来い。オルフェルトの娘」

そんなリイエンにそう声を掛けると青年は開いた扉の内へと入って行く。

その姿を見失わないようにとリイエンは慌ててベッドを降りて青年の後を追った。

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