風とウルフと忘れた過去
『風雅…知り合い?』

「しー…」
人差し指を口に当てられ次の言葉を出せない俺に風雅は優しく微笑んだ。

周りの奴らも気付けば静かになっていた。

扇を閉じる

パチンッ

という音と風雅が歩く度にする衣擦れ以外に音は何もない。


扇にさっきまで風雅の周りにあった緑の光が集まり幻想的な景色となっている…


たしかにこれが仕掛けじゃないと俺には直感的にわかった。



気付くと風雅はさっきのじいさんのとこまで歩み寄っているが何かが変だ…


んっ?じいさんは風雅にまったく気付いていないのか…

いや…

見えてないんだ

俺は目を見張った。
風雅が何をするのか、何が起こるのか。
わからないことだらけだったから。

知らないのはきっと一人だけなんだ。

そう思うと少し寂しい気持ちになっていた。

風雅はすでに見える位置に立っている。

でもまったく違う物しか目に入っていないじいさん。


扇を広げじいさんを軽く扇ぎ始め言葉を口にした。

「我が名において汝に我らの風をば与えん。これ汝が孫にぞ運びうれば、汝が孫は目を覚まそう…いざ参れ」

言い終わると同時に強い風を風雅は扇によって吹かせると、緑の光がじいさんの身体へとほんの少し移っていた。


風を感じて目を見開くと、じいさんは一礼してその場を速足で去って行った。


何がなんだかわからない俺以外はまた静かに話を始めた。
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