アオイハル
昨日は兄に捕まったせいで、あの人に会えずじまいだった。



学校前で待ち伏せできないならどうしようかと思案しながら、箒を持つ手を動かしていた。



今は、校内清掃の時間だ。



ふと、窓の外に視線を向けると、授業中なのか兄がグラウンドを走っていた。



文武両道に長けた兄に敵う相手など…えっ!?



私はびっくりして、窓に張り付くように外を眺めた。



兄と争える人が、いたからだ。



しかも、私を助けてくれた…あの人。



暴漢を一撃で倒したくらいなのだから、スポーツは得意なのだろう。



兄とデッドヒートを繰り広げた結果、勝ったのはあの人だった。



非常に悔しがっている兄に対して、あの人は喜びを露わにすることもない。



手の甲で滴る汗を拭うと、あの切れ長の目を私がいる方に向けた…ような気がした。



クールな様子に、私の口から言葉が零れた。



「素敵…。」



最初は恐れていたあの目に、私は惹かれてしまった。



「聖愛さん、外ばかり眺めていらっしゃるけれど、何かありましたの?」



同じ清掃区域の翠子が声をかけるので、彼女の袖を掴んで外を指差した。



「あの方、ご存じかしら?」



「聖愛さんがご存じないのも、無理はないわね。

紫宝院家の彬様よ。」



それを聞いて、目の前が真っ暗になった。





< 13 / 26 >

この作品をシェア

pagetop