アオイハル
私がいることで、彼女は頑張って泣き止もうとしている。



ここから離れた方が良いような気もしたけど、そんなことをしたら彼女が遠慮するだろうから、私はそのまま此処に留まった。



しばらくしてから、泣いていた彼女は落ち着きを取り戻したようだ。



祈るわけでもなく、ただ座っているだけの私を不審に思ったのだろうか?



「お祈り、されないの?」



「私、敬虔なクリスチャンじゃありませんので…。

ここで考えごとすれば、名案が浮かぶんじゃないかって思って来たんです。」



「良かったらその考えごと、私にも話してくださる?

ティッシュのお礼に、一緒に考えますわ。」



そう言われても…とは思ったが、自分ひとりじゃ名案が浮かぶわけもなく、私は名前も知らない彼女に紫宝院様のことを打ち明けてみた。



「あなたが助けられた場所の近くに大きなお寺があるのだけど、彼は週に1回通っているそうよ。」



兄と同様に紫宝院様も学園の生徒に人気があるのか、そんな情報まで飛び交っているらしい。



「ならば、そこで待ってみます。」



「ただ、校門で待ち伏せされるのさえ快く思わない方…。」



じゃあ、どうすれば?



「ここだけの話、彼は甘いお菓子には目がないの。

私は、これで失礼するわね。」



ヒントは与えたといった感じで、彼女は席を立つ。



「私、葛城聖愛と申します。

もしよろしければ、お名前を…。」



「そう、あなたが…。」



彼女は呟くと、扉の手前で振り向いた。



「私は、影子。」



そう言うと、彼女は礼拝堂を出た。



彼女も『エイコ』…、私は先日同級生たちから助けてくれた先輩のことを思い出した。






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