どくんどくん2 ~あの空の向こう~
水野さんの家の玄関先に咲く花は、春はまだかと待ちわびているようだった。
「おぉ!電話くらいしろよ!飯くらい用意しといたのに。」
昔に戻ったような明るい声に、僕とユキはホッと胸を撫で下ろす。
「せっかくケーキ持ってきてくれたから、食べましょうよ!」
みずきさんの入れてくれる高級な紅茶を飲みながら、穏やかな時間が流れた。
誰もゆうじのことは話さなかったが、みんな心の中で考えていることは同じだったろう。
「俺、ちょっと病院行って来るわ。お前が来るならキャンセルしといたのに。」
水野さんはジャージ姿で、自転車で病院へ行ってしまった。
病院はここから5分くらいの場所にあり、1時間で戻ると言っていた。
僕は、水野さんが倒れた日のことを意識せずにはいられなかった。
時間帯といい、ケーキと紅茶・・・。
「あの時は、本当にハル君ありがとうね。」
みずきさんも同じ事を思い出していたようだ。
「亮ちゃん、すごく元気でしょ?やっといい病院見つけて薬もらうことができてね。薬飲んでから1週間くらいで、元通り元気になっちゃって・・。今まで、連絡もらってたのに、ごめんね。全然会えなくて・・。あの頃は、別人のように、元気なくって。」
みずきさんのほっそりとした腕で、水野さんは支えられているんだと思った。