どくんどくん2 ~あの空の向こう~
第29話(キス)
行かないで、とさゆりさんは僕の胸に再び飛び込んできた。
振り払うことはできない。
僕には、この震える細い腕を振り払うことなんてできないんだ。
「・・・警察に、通報・・するぞって言われたの・・」
「え・・?警察?店長頭おかしいよ。さゆりさん犯人じゃないのに・・」
「水商売の・・女はこれだから、厄介なんだって・・言われた・・」
僕は、ここまで泣きじゃくる理由がわかったような気がした。
そういう言い方は、水商売で働いている人にとって、とても傷つく。
「じん・・くん。お願い・・あたし・・彼女いてもいいから・・・」
「え??何?さゆりさん・・しっかりして・・」
思わぬ発言に、動揺する僕の言葉を遮るように・・・
さゆりさんの唇が
僕の・・・唇に
重なった。
僕は、金縛りに遭ったように身動きが取れなくなっていた。
ただ、目の前にいるさゆりさんを見ることしかできなかった。