どくんどくん2 ~あの空の向こう~


「過呼吸と言えば、聞いたことがあるでしょう。」


主治医の先生は、僕たちの顔を順番に見回した。


過呼吸なら聞いた事があった。


僕とみずきさんが軽く頷くのを見て、先生は再び話し始めた。



「酸素を取り過ぎて息苦しくなるわけだから、過換気症候群で、死ぬことは絶対にありません。でも、本人は意識がはっきりしたまま死ぬような苦しみを味わいます。それは、経験した人にしかわからない恐怖です。意識のあるままに死の恐怖を味わうということが想像できますか?」


僕は想像することもできなかった。

意識がある中で、大事な人や会いたい人の顔を思い浮かべる辛さ。

そして、自分がもうすぐその大事な人を悲しませると自分で理解できる。

自分は死ぬんだって感じながら、苦しむって…想像を絶する。



「彼は奥さんや、自分の家族や友人や・・たくさんの人のことを考えたでしょう。そして、どんどん範囲が広くなっていくしびれを感じながら、このまま心臓までしびれが来たら自分は死ぬんだ・・と思う。決して、死ぬことはない病気ですが本人にとっては死ぬより怖い体験かも知れません。そのことだけは、覚えていてください。」



なんて事だ。



そんな恐ろしい病気があるなんて…



僕は知らなかった。



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