どくんどくん2 ~あの空の向こう~
タクシー乗り場まで送ってくれたみずきさんは、大きく息を吐きながら少し笑顔を作る。
「ハル君がいてくれなかったら私どうなっちゃってたか・・ほんとにありがとね。落ち着いたらまた連絡するから。本当にありがとね。」
僕は、帰りのタクシーの中で、外の景色を眺めた。
こんな道を通ってたのか。
行きのタクシーでは、水野さんの顔ばかりが頭の中ぐるぐるしてた。
僕は、タクシーの運転手さんに、行きの運転手さんの居場所を聞いた。
「山之上さんなら、だいたい夕方はいつも病院付近にいるんじゃないかな?」
助手席の後ろに貼られていた運転手さんの名前とプロフィールがやけにはっきり記憶されていた。
『山之上忠 55歳 趣味 ゴルフ 親切安全快適運転約束します!』
その夜、ユキに長い長い今日の一日を報告した。
その場にいた人にしかあの気持ちはわからないと思うけど、少しでも僕の気持ち伝えたかった。
「良かった。元気になって。」
ユキのその言葉に僕も、頷いた。
しかし・・・・
本当の戦いはこれからだってことをまだ誰も知らなかった。
その病気の恐ろしさにそのときはまだ気付かなかった。
絶対に死ぬことはない、死ぬほど苦しいその病。
見えない陰はゆっくりとゆっくりと水野さんに近づいては離れ、近づいては離れ・・。
その大きな影は少しずつ水野さんに忍び寄ってきていた。