どくんどくん2 ~あの空の向こう~
第11話(トンネルの向こう)
満月が明るすぎて、影がくっきりと浮かび上がる夜のことだった。
合宿もあと3日というラストスパートに差し掛かっていた。
眠れなくて、ユキからの過去のメールを読み返すというなんとも女々しいことをしていた僕に、突然悲鳴のような叫び声が聞こえた。
隣の棟からであろうその女性の叫び声に、多くの合宿参加者が、窓から顔を出す。
窓から、中庭のベンチを見ると、女性ばかり5人がうろたえた様子で誰かに助けを求めていた。
熟睡している寛太を起こし、僕はベンチへと全力で走った。
「誰か!!救急車呼んで!!」
30代くらいの女性が、僕を見つけて大声で叫んだ。
ベンチに横たわっていたのは、20代前半であろう細身の女性だった。
とても息苦しそうに、はぁはぁと肩で大きく呼吸を繰り返す。
手足が体にくっついて、体ごと丸くなっていた。
僕は、持っていた携帯電話で救急車を呼ぼうとした。
その時、以前同室だった精神科医の先生が、僕の携帯を取り上げた。
「大丈夫だから!!」
先生は、手に持っていたビニール袋を彼女の口に当てた。
「落ち着いて。ゆっくり落ち着いて息をしてごらん。すぐに楽になるから。大丈夫。落ち着いて。・・・・そう、ゆっくりゆっくり。楽になってきたでしょう。」
僕は、その光景を一番近くで見ていた。
本当に苦しそうだった彼女だったが、1分もすると・・・呼吸も落ち着いて、声も出せるまで回復した。
僕は、これが『過呼吸』だ、と理解できた。
水野さんが倒れてから、毎日毎日調べていた病気についてのこと。
紙袋やビニール袋で、自分の吐いた息を吸うことで、体内の酸素の量が正常になると書いてあった。
息苦しくて、よけいに酸素を吸いすぎて、酸素の量が増えすぎることでパニック症状になる。