晴れのち雨ときどき曇り

「海亀、好きなんですか?」

 私は,つい突拍子もないことを口走ってしまった。

 日向君はフリーズしている。

 それから,曖昧に返事をくれた。

「海亀の裏側とか…見たくなりません?」

(何を言ってるの,私……)

 話していて,訳が分からなくなってきた。

 でも,日向君はうーんと唸ってから,「……見たい、かも」と言ってくれた。

私は何だかそれがとても嬉しかった。

 元々,水族館が好きなこともあるけれど。

(どうしてだろう)

どうして,日向君の隣に居ると,日向君がいる方の顔だとか,手先が温かく感じるのだろう。

 私は,泳がない海亀をぼんやり見つめながら考えていた。

「泳ぎませんね……」

 そんな風なことも言ったかもしれない。

視線の方向は海亀。
 
でも,私が見ていたのは本当は海亀じゃなくて。

 それから少し経って,目線を少しずらすと日向君と目が合った。

「すみません」

 私は,慌てて次の水槽に進んだ。
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