晴れのち雨ときどき曇り

 私と日向君は,大きい水槽の前に備え付けられていたベンチに座っていた。

「……水族館,好きなんだ」

 日向君は思いついたように言う。

「そうですね……何か、不思議な感じがしません?」

水族館は私にとって安心する空間だった。

 泳いでいる気分とまではいかなくても,水の煌めきに包まれているような雰囲気が好きだった。

「海の神秘みたいなカンジ?」

 少し考えて,日向君は水槽を見ながら呟いた。

「あ,そうかもしれません」

私は“神秘”と言う言葉にうっとりしながら答える。

「……俺も,水族館は嫌いじゃない」

 横を見ると,日向君は口元を少し上げて柔らかく笑ったように見えた。

 日向君のそういう笑顔を,私は知らなかった。

 私は,ついつい顔が緩んでしまっていたと思う。

 お互い,また水槽を眺める。

 それは穏やかな時間だった。
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