晴れのち雨ときどき曇り
 俺は、予備の傘を差す。

 此方の傘の方が良かったかもしれない。

 彼女は気にしないだろうけど。

 俺は、不意に鞄に入れた本を思い浮かべた。

(帰ったら、直ぐにあの本を読もう。)

 何度寝そうになっても、絶対に読む。

 そうしたら、また夢で会えるかもしれない。

 俺は、密かにそんな非現実的なことを考えていた。



 その夜も俺は、またあの灰色の世界に居た。

 ぼやけた霧の中で目を凝らす。

 人の陰。

 黒い、輪郭。

 あの横顔。

 雨の降る夢の中に、彼女がいた。

 雨の降る夢は、幸運を呼ぶ恵み象徴。

 本にはそう書いていた筈なのに、彼女はちっとも楽しそうじゃない。

 彼女は傘も差していない。

 また、服は濡れることもなく独りで立っている。



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