晴れのち雨ときどき曇り
翌日、やっぱり俺は、彼女に構わずに居られなかった。
俺は、夢の中の調子で思わず名前で呼んでしまった。
しかし、彼女は怒らない。
むしろ、それを容認するような言葉を俺に投げ掛けた。
それは確かに、夢の中での彼女だった。
(だって、晴子ちゃんは言った。)
晴子と呼ばれるのが実は好きでない、と。
もしかしたら、彼女はあの夢を覚えてるのだろうか。
俺が、ぼうっとしていると、彼女は俺の傘をぐいと押し付けた。
それから、俺から顔を背けて図書室に入って行く。
「ちょっ、晴子ちゃん!本、返却したいんだけど…」
食い下がるようにして受付のカウンターに昨日借りた本を置く。
俺は、また本を借りていいかと聞いた。
「…私に聞かなくても、図書室の本は借りていいことになってるから」
彼女は、トン、と貸し出しカードの束をまとめながら言った。
それから彼女は何も言わないで受付席に座り、重厚なハードカバーを開いた。
“もう話しかけないで。”
彼女の眉間が、そう言っていた。