晴れのち雨ときどき曇り
「あ、でも、濡れたらイヤだし…筆入れに…いや、落として壊したら困る…」

 雨谷は、窓の外で雨が降ったのにも気付かないで、鞄と向かい合ってブツブツと話している。

 ペンケースや財布を引っ張り出しながら睨めっこをしている雨谷を見ていると、今度は晴子が笑みを堪えてしまう。

「できた!」

 雨谷が、ニコニコしながら見せてきたのは、鞄の内側だった。

 その内ポケットのファスナーには、控え目に可愛いらしいアクセサリがついていた。



 晴子は、学校に居た。
 
 見慣れた風景が目の前に広がっている。

 図書室だった。

 カウンターからよく見える窓側の席には人の影がない。


 ほんの数週間前だったら、その人影が無いことに対して晴子は疑問を持たなかった筈だ。


 でも、今は違う。


 何かが足りない。


(誰かが足りない。)


 窓の外では相変わらず雨が降っている。

 彼が来ていない内に、晴子が夢で何処か特定の場所に居ることは今夜が初めてだった。


―「晴子ちゃんは、このまま雨が降った方がいい?」

 不意に彼の言葉や、あの時の表情を思い出す。

 彼は、私の気持ちを見透かしているようにも思う。

 雨は止まない。

 晴れる様子もない。



 晴子は急に不安になった。


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