晴れのち雨ときどき曇り
「……名前……」
あの時、図書室の前で雨谷君は私を名字で呼んでいた。
(夢では遠慮とかないんだ……。)
「……あ、ゴメン。嫌なら、天川さんて呼ぶし!」
雨谷君は本当に明るく笑う。邪気が無いと言うか、屈託が無い。
私は、そんな風に人前で笑ったことがない。
「……別に、いいよ」
「あれ?傘、持ってるのに差さないの?」
「面倒だし、濡れないから」
「そう……?髪、濡れてるみたいだけど……」
栗色の自分の髪をすきながら悪戯っぽく笑う。
「……え、嘘。……あ」
私は、傘を持ってなかった方の手で自分の髪を触る。
毛先に溜る滴。
その水滴は冷たくもなかった。